ここはとあるホテルの式場。ホテルの横に、背が高く存在感のあるチャペルが建っている。
「行くぞ、き……いや、羅良」
まるで、今から敵機に特攻するような面持ちの父につられ、こちらまで緊張感が高まる。
「うん。お父さんも失敗しないでよ」
うなずいた父は数歩進んだだけで、ドレスの裾を踏みまくる。
「おいおい。しっかりしてよね」
こうしている間も、羅良が我に返って戻ってきてくれればいいのにと願わずにはいられない。
けれど彼女は戻ってこないまま、予定時刻になってしまった。
仕方ない。覚悟を決めよう。
「さあ、仮面をかぶるのよ。私は──羅良!」
昔の少女漫画の主人公のように、自分に暗示をかけ、一歩踏み出した。
開けられたドアからパイプオルガンの音が流れだす。
父に裾を踏まれつつも、転倒しないように気をつけ、歩みを進めた。
母は感動して泣きだす演技をしている。羅良の友達や同僚は、何も気づいていない様子で私を拍手で迎えた。
陸上で鍛えた足でハイヒールに耐え、しっかり背を伸ばして歩く。
祭壇の前に到着し、父から裕ちゃんにバトンタッチ。
ベールを下ろしてあるので、裕ちゃんの細かい表情まではわからない。
神父の後ろには見事なステンドグラスがあるが、ゆっくり見ている余裕はない。



