結局、駆け込んだのは実家だった。他に行ける場所が思いつかなかった。

「どうしたの!」

 夕方から走り回って髪はグチャグチャ、メイクはドロドロ、玄関に上がった足はストッキングが破れ、血が滲んでいる。

 犯罪にでもあったような娘の姿に、玄関で出迎えた母は狼狽えていた。

「……羅良から電話がかかってきて、話をしたの。そのことで裕ちゃんとケンカになった」

 自分よりも狼狽えている人間を前にすると、意外に落ち着いてしまうものだ。

 私は家の中でストッキングを脱ぎ捨て、ゴミ箱に放った。

「どうしたんだ。何があったんだ」

 リビングで高級ソファに埋まり、のんびりテレビを見ていたのであろう父も、飛び跳ねるようにして立ち上がった。

 羅良と直接会ったことは、まだ黙っておこう。

 彼女の幸せを願うなら、このままそっとしておいた方がいいのかもしれないと思うから。

「羅良から連絡があったの。もう、裕ちゃんとはやり直せないって。実家に戻る気もないって」

 両親は驚きで、二人そろって目をまん丸くした。

「そんな、どうして……」

 母が崩れ落ちるように、近くにあった椅子に座る。父が支えるように、その肩を抱いた。