「おっと」

 鏡の前でスマホを取り出して見ると、健ちゃんからのメッセージが届いていた。

『羅良ちゃんの失踪当日の足取りがつかめたよ。 あと、最近どのあたりに現れたかも』

 一瞬にして爆発的に、体中の温度が上がるようだ。

 震える指先で、ゆっくり返事を打つ。

『今ちょうどトイレ。会ってゆっくり話が聞きたい。いつなら大丈夫?』

 すぐに既読マークが付き、『今日の夕方でも』と返事が来た。

 昨日のように、仕事帰りに待ち合わせすることにして、スマホをポケットにしまった。

 秘書課に戻って時計を見ると、もう二時だ。あと一時間で私の勤務時間は終了。

 あと少しなのに、時間の進み方がすごく遅い気がした。

 やっと永遠にも思える一時間を乗り越え、三時ちょうどに席を立つ。

 会社を出ると、健ちゃんが指定したお店に急いだ。

 銀座にあるそのお店は、一階が洋菓子を売る売店、二階がレストランになっている。

 私が向かったのは、三階。そこにビップルームがある。いくつかの個室に分かれているので、込み合った話をするにはうってつけだ。

 約束の時間より早く着いたと思っていたのに、個室に案内されたときにはもう、健ちゃんはパフェを食べてすっかりくつろいでいた。

 まさか、今日も仕事をおさぼり……。

 人のことは言えないし、突っ込んで羅良のことを教えてもらえなくなっても困るので、そこには触れず、静かに向かいの席に座った。