土下座するふたりを見つめ、裕ちゃんが薄情とも思えるくらい冷静に呟く。
「そうするしかないかもしれませんね」
「えっ?」
「おふたりのおっしゃるとおり、希樹さんに羅良の代役をしてもらいましょう」
「ええー!」
まさか裕ちゃんが乗ってくると思わなかった。
困惑する私をよそに、立ち上がった両親と裕ちゃんが話を進めていってしまう。
「とりあえず、うちの両親に羅良の失踪のことは伏せておきます」
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
「ただ、式だけ済ませればいいというものではありません。おわかりだと思いますが、周囲の目を欺くためには、羅良さんが戻るまで、希樹さんに妻役を継続していただく必要があります」
裕ちゃんが私を見る。
すっとした切れ長の瞳に見つめられ、思わずどきりとした。
「周囲に本当に結婚したと思われるよう……」
「会社の集まりや、実家の集まりに新妻がいなくては不自然だろう」
「たしかに」
彼がいうことは一理あるが、私が羅良になりすますということは、私の人生はどうなるの?
私にだって仕事があるし、友達もいる。それらを全て捨てて、身代わりになれというのか。
「大丈夫です。希樹はうちの会社でしがない事務をやっていただけなんで。いくらでも代わりはいます」



