「でも、花嫁がいないのに、どうやって式を挙げるの?」
私が問うと、全員が口をつぐんでしまった。
「……今さら式をキャンセルしたら、父が怒り狂うだろうな」
ぼそっと呟く低い声。裕ちゃんのひと言が、私たち家族を押しつぶすように重く響く。
裕ちゃんのお父さんを怒らせる=星野グループに切られることは、日本から追放されるも同然だ。
それくらい大きな力を持つグループのトップ企業の副社長。それが裕ちゃんだ。会長がお父さん。
どうにかしてこの危機を乗り越えなければ、父が抱える何千人もの社員が路頭に迷うことになってしまう。
ひいては、父の会社でぼんやり事務仕事をしている私も、路頭に迷う。そんなの嫌だ。
うーんと頭を抱えて考え込んでいると。
「そうだわ!」
いきなり大声をあげたのは、母だった。
またいらんことを言うんじゃないかとにらむと、母は私の肩を、強く叩いた。
「ここにいるじゃないですか、花嫁代理が!」
「……へ?」
「いつもより明るいファンデーションを塗れば大丈夫よ。とにかく今日の式を乗り越えるの」
「それって、私に羅良の代わりをやれってこと!?」



