「……」






今そんなこと言わないで………







目頭が熱くなるのを必死で膝に擦り付けて防ぐ。







「言いたくないなら言わなくていい。だが、言わないと伝わらないことだってあるって言っただろう?………だから限界になる前に言え。」







ハッとして棗を見た。








その恐ろしいくらいに整った顔が微かに笑っている。






「俺たちはお前を見捨てたりなんかしない。」







約束しただろう?






そう目が語っていた。







「……っ」






私はいつの間にかこの目もこの声もこの仕草も全て好きになっていたのだ。







早くこの気持ちに気付いていれば良かった。







後悔が押し寄せてくる。







だけど言えない。







…いや、言わない。






「…ありがとう」






そう言って立ち上がると棗に腕を引かれた。







そして唇に感じる感触。







自然と息苦しくはない。








目を閉じると時間が止まったように感じた。






そっと棗の顔が離れていく。






「美幸……いつでも俺を、俺たちを頼れ。」







そっと目を閉じて深く息を吸い込み目を開いて自分の中で一番の笑顔を作った。






「ありがとう。棗」






これで覚悟が出来た。






私は私なりに皆を守る為に彼らと戦う。






棗を置いたまま私は歩き出す。






徐々に溢れてくる涙をそっと拭いながら私は振り返ることはなかった。