「こんにちは、美幸さん」
マグカップを持って立っていた無限が笑顔で言う。
無限以外は誰もいない。
「こんにちは。みんなは?」
そう尋ねると少し困ったような顔をした無限。
「少し抗争がありまして。特に強いところでもないのでアキラを筆頭に数人で潰しに行ってます。」
さらっと言う無限。
先程の顔はアキラたちが心配なのではなく私に聞かれたくなくての顔だったのだろう。
「……そっか」
そう言って私は無限の隣に座った。
すると苦笑する無限。
「美幸さん。貴女は俺の隣じゃなくてあっちじゃないですか?」
無限が指差した先にはとても恐ろしい目でこっちを見つめている黒羽の総長様。
「……美幸。来い」
私は首を傾げて棗の前に立つと棗がぐいっと私の手を引っ張った為よろめいて棗の膝の上に座ってしまった。
「……」
「……」
「……降りていい?」
「却下」
無限に助けを求めるが返ってきたのは苦笑だけ。
どのくらいその状態でいたのか。
下が騒がしくなった。
「アキラたちが帰ってきたようですね。」
パソコンを扱っていた無限が手を止めてドアを見る。
私が少し体を動かすと降りたいと気付いてくれた棗がそっと私の体を解放してくれた。
無限がドアを開けて下の様子を確認し、私と棗に頷く。
私は手すりから一階を見て目を丸くした。
そこには黒羽のメンバーに囲まれた伯が居たからだ。
「っ伯!!」
嬉しくて思わず名を呼ぶと伯も私に気付いて両手を広げる。
「!?ちょっ、美幸さん!?!?!?!?」
ギョットとする無限の静止も聞かずに2階から伯の腕の中めがけて飛び降りた。
突然飛び降りてきた私を伯は事も無げに受け止めてくれる。
それだけ私たちはお互いを信用している。
「うわっ!!美幸ちゃん!?」と驚く環
「お前、大胆だな~!」と同じく驚いている敏次。
よく見ると二人の体には微かに擦り傷や切り傷がある。
「あ、お帰りなさい。大丈夫だった?」
「全く問題ないよ、美幸ちゃん。」
ぽんと頭の上に手が置かれた。
それはただいまと優しく言うアキラの手だった。
「皆さんお帰りなさい。……そして美幸さん。少しお話があります。」
ニコニコと完璧なのに何処か黒い笑顔の無限を見て私は伯にしがみつくのだった。