夜、棗の車でマンションへと送ってもらいながら私はそっと窓から外を見た。






自分の本当の両親は写真の中でとても幸せそうだったのを思い出す。






「………私の両親がもし生きていたら私と棗は違う出会い方をしていたのかな…」







チラッと棗が私を見る。






「棗は知ってたの?私が……柊沢美幸だって」






「……あぁ。記憶が残っていたし、ずっと見てた写真だからな。」






「……そっか。」






だから初めて会った時、彼は私を食い入るように見ていたのだろう。






とても悲しい顔をしている自分の顔が窓に映る。






「……私……やっぱり…本当の両親に生きててもらいたかった」






だけど、と棗を見る。






「だけど棗と出会えたこの人生が変わるのは嫌だ。」







微かに棗の目が開かれる。






「本当の両親がいないのも……それから起こったことも…私にとっては消し去りたい過去だけど……伯や昌廣さん、敏次に斎に環にアキラに無限。……そして棗と出会えたから、今まで生きてて良かったなって思えるんだ。」






棗は何も言わず私の手を力強く握ってくれた。






ふと車が止まり棗が降りる。






戸惑ったまま車の中にいると助手席側に回った棗が車のドアを開けた。






大人しく車から降りると彼は私の手を引いたまま歩いていく。






着いた先は夜景が一望できる高台だった。





「わ……」





初めてみる夜景に驚いていると後ろから抱きしめられる。






「…棗?」






背中の温もりに安心してそっと寄りかかる。






「……俺がお前の側にいる。ずっとだ。…もう美幸に寂しい思いも辛い思いもさせない。」







「…うん。」







「今は言えないことも、無理して言う必要はない。美幸が言えるようになるその時まで俺は一生待ってる。」







そう。






棗は私の闇を知っている。







それなのに私の口から話されるのを待ってくれている。






無口な棗が言う言葉一つ一つが私に勇気をくれた。






そんな彼に甘えてしまうのは彼の事が好きだから。







「それじゃぁおじいちゃんになっちゃうよ」






微笑みながら言えば後ろでもクスっと笑う声が聞こえた。






ゆっくりと振り向けば自然と重なる唇。






「本当にちゃんと話せる時まで待っててくれる?」







「あぁ。約束だ」






そう言って棗はまた私にキスをする。