「あ―……考えてないな」

「え?」

「まぁ僕は何回か特権を使ったことあるし、今更そんなに特権の有り難さとか貴重さとか、感じてないなぁ。でもお前は今回がはじめてだろ?」

「はい」

「なら尚更、大事にしろよ」

じゃあ仕事戻るから、と言って先輩はトマトジュースのパックを持って屋上を出ていった。



屋上に残された俺は、食べ終えた弁当箱に蓋をして手当済みの左手を顔の前に掲げた。
手の甲にたった1枚貼られた少し大きめの絆創膏は昨日見知らぬ彼女を咄嗟に守った時のものだ。
あれだけ勢いよく行ったのにも関わらず、かすり傷はいくつかあるけど1番大きな怪我はこれだけって奇跡だよな…。

水分を取ろうとペットボトルに手を伸ばした時、右腕に嵌めていた腕時計の時刻を見て時間がかなり経っていることに気づいた。

ビニール袋に弁当箱と飲みかけのペットボトルを入れて立ち上がり小走りで出口に向かう。




ー今日こそ、行くぞ。