先程、言い損ねた台詞に近いものを思い出しながら、自分はゆっくりと口にしていく。



「よ…………な、なんか、こうやって一緒に居ると、落ち着けるから良い」



ついさっき決めたばかりの呼び名も、なかなか呼ぶことが出来ない。

それなのに、栗山くんは嬉しそうに、落ち着かない様子でいる。

それを見て、今すぐに出来なくったっていいか、そんな風に思えた。

栗山くんだって、自分の名前をまだ易々とは使えていない。

お互い様だ。

今はただ、これだけで十分。

上手くいかないことばかりでも、君さえ隣に居てくれれば、それだけで十分。

つい最近になってから、やっと、そう思うようになったよ。

自分は無言で、栗山くんの口許に付いたタレを、手拭いで拭い取る。

その後、自分が焼鳥に手をつけても、しばらく栗山くんは身動きせずにいた。

不思議に思い、自分はとりあえず、出来ているかもわからない微笑みを向けておいた。





孤独も溶かすいっぱいの魔法
おわり。