「今日、エイプリルフールやもんな?」

「………きょ、今日、エイプリルフールですからね……」



会話が、いまいち噛み合っていないんじゃないか?

自分は不思議に思い、首を傾げた。



「なんや、華ちゃん。俺が結婚するって聞いて、実は焦っとったんやな?」

「はい……?」

「わかったで、俺!『俺に素敵な人が絶対に現れる』ってことは……」

「あの、せ、先輩……?何を言って……」



この人が、これから何を言わんとしているかが、全く見えてこない。

対応が出来ない。

さりげなく、車に鍵をかける。

これは、逃げる準備だ。



「つまり、その逆で『俺に素敵な人は絶対現れやん!』ってことやな?つまり……先輩の隣は、私しか有り得やん!そういうことやろ!」



何故か如何にも、自信あり気な顔で自分に迫る。

なんて見事な論理解釈だろう。

ああ。もう、ついて行けない。



「ち、違います………」

「それも、エイプリルフールか!」

「……もう、勘弁してもらってもいいですか」



朝から、ひどい疲労感に襲われる。

やっぱり、ちょっとした嘘なんて、吐くものじゃない。

少し悩んだあと、先輩を見上げると、至極嬉しそうにしていた。

この時間すらも、楽しいと感じている自分に、密かに頭を抱えた。





誰にも覚れない嘘を吐く。
おわり。