水川の箸で差し出されたのは、鮮やかな緑色のブロッコリーだった。
ブロッコリーは好きだ。
でも、こいつのは嫌だ。
ブロッコリー自体には、申し訳ないけど。
「口、開けろって」
水川がそんなことを言われ、一瞬動揺してしまった。
動揺する自分に、水川は更にしつこく迫ってくる。
あーん、だか何だか言って、自分の口にブロッコリーを近づける。
自分は、必死で無視、無言を貫いた。
自分が黙っているせいか、周りの囃し立てる声が、際立って聞こえているような気がした。
顔がやっぱり、燃えるように熱くて仕方がない。
今すぐにでも、この教室から逃げ出したかった。
水川のブロッコリーが、目前に迫り、顔を逸らす。
逸らした時、誰かが視界に入った。
その影の主が手に持つ、空の牛乳ビンで、影の主が水川の頭を小突く。
「おい、お前。ほんとにいい加減にしとけって」
「栗山……何だよ。お前もしてぇのか?」
水川は、ニヤニヤとして栗山くんを見る。
そんな水川に、栗山くんは目を細めた。
「お前、いい加減にしろよ」
そう言った栗山くんの声は、静かなのに、強い感情を帯びていた。
飲み終わった牛乳ビンを、前のカゴヘ戻しに行く、影の主の正体、栗山くんの後ろ姿を自分は見つめる。
戻ってきた栗山くんと、目が合った。
栗山くんが先に目を逸らしたから、自分も弁当に視線へ移した。
もしかして、庇ってくれた?
気づけば、周りの空気もガラリと変わり、水川グループの男子らも、正面へと向き直っていた。
水川だけが、栗山くんに悪態を吐き続けている。
周りのお弁当を食べる時に出る、カチャカチャという音。
友人同士で食べながら、話している女子の声。
スピーカーから流れる、お昼の放送。
ここにある、全ての音がノイズの様に聞こえて、また水川の栗山くんへの悪態も、そのノイズに混じっていった。
たった今、自分の神経は全て、栗山くんの残像だけに捕らわれていた。
PlayBack Ⅱ―王子の武器は牛乳ビン―
おわり。