楽しいひと時を過ごす中、マナちゃんが思い出したように言った。


「あっ、今度、教室でセッションが
 あるんです

 イベントに向けて」

「イベント?」

「そうなんです、ユウさん
 見に来てくれたら嬉しいなぁ」

「マナちゃん
 ユウさんは忙しいから無理よ」


 シングルの発売は無事に終えたものの、続いてアルバムの発売があり、その後は全国ツアーに向けて活動が始まる。----もうしばらくは、何とか時間が取れるだろう、私。


「ミカさん、後で日にちと時間
 それと場所、教えてくれる?

 マナちゃん、時間が空いてたら
 観に行くね」


 私のことを心配して声をかけてくれる、実花さん。


「無理じゃない?」

「わたしが観たいから
 イベントがもし無理でも
 教室のセッションは
 必ず観に来れるようにする」

「本当、わーい

 マナ、頑張って課題曲練習します」

「うんうん、がんばってね」

「ユウさん、約束して大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」

「ほんと、やったぁ

 そうと決まればマナちゃん
 張り切って練習しましょう」

「はーい」


 イベントに出演しないだろう実花さんまで、あんなにも喜んで張り切りだしちゃうなんて……。私は自分の存在価値を認めてもらい、とても嬉しい気持ちになった。

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 レッスンを終えた教室には、実花さんと私だけ。音の止んだ静かな時が流れて行く。