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 片づけを終えた音楽教室の鍵は閉められ、私達は腕を組み駅へと向かう。実花さんと二人、電車のドア辺りに並んで立つと見える世界。

 西の空に夕焼けの名残り----黄昏時


「ユウさんって本名だよね

 夕日のユウ?」

「そうです」

「カタカナでユウ」

「変わってるでしょう
 でも、姉の方がベニだから
 もっと変わって、る

 ……」


 腕を組んでいたはずなのに、実花さんの手が私の左手に触れて、優しく繋ぐ。

 私の左手に今まで感じたことのない感触がある。それは、ふんわりと温かな手の温もり。


「ユウ、そう呼んでもいい?」


『ユウ』----実花さんの落ち着いた深い声が、彼方の声と重なる。


「二人で居る時は、いい?」

「はい、別に普段も呼び捨てで」

「それはダメ!
 普段は、ユウさんで

 私のことはミカでいいよ」

「ミカさんで」

「ふふっ、じゃあ、これから二人きり
 の時はお互いに気を使わずに
 さんづけは禁止にしよう、ねっ

 敬語も禁止」

「うん」


『これからは……』----実花さんと過ごす『これから』は、私の『これまで』を変えてゆく。


 黄昏時----『誰そ彼(たそかれ)時』

 そこにいる彼は、誰ですか?

 よく、わからない。

 
 私は、彼方を見失う。

 彼方への愛、見えなくなる。