私が彼方にギターを教えてもらったように、今日も誰かがこの教室でギターを習ってる。何とも嬉しい気持ちになる。

 私がデパートの中に入るのと同時に、ギターケースを背負う人が建物内へと入って行く。

 
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 時間をつぶして、買い物袋を手に彼方の家へと向かう足取りはとても軽く、ドキドキの波は最高潮。

 彼方の住む賃貸マンションの前----フーと、深呼吸をひとつする私の手から買い物袋をサッと取る人がいた。


「カナタ、今帰りだったの、おかえりなさい」

「ただいま、間に合ってよかったよ」

「走って帰って来てくれたの?」

「ああ、入ろう」


 開錠された扉が開く----


「ごめんね、忙しい時に……」

「謝ることない、約束しただろ

 あっ、部屋は散らかってるぞ」

「うん、別にいいよ

 シゲさん、腰痛またひどいの」

「ああ、それなら大丈夫
 
 いつもの針治療で何とかね」

「そう、よかった」


 茂伯父さんのお店は今風に言うとカフェ、昔風に言うと喫茶店、要するに飲食店である。お客様によってその呼び名はコロコロ変わる。

 私はデビューする前、毎日のようにお店でギターを弾かせてもらっていて、そこで少し有名になり事務所の社長である戎家さんに声をかけられ、今に至る。私にとって恩のある場所と言える。