「この間の回鍋肉は
 少しも辛くなかったのにぃ」

 
 思った以上に辛くなってしまった、雑炊。


「残しちゃ勿体ない」

「うんうん、がんばろう」


 格闘した挙句、勝者した私達の顔には汗が噴き出している。


「ミカ、すごい汗」

「ほんと、こんなに汗掻いたの
 初めてだよ
 
 お風呂、入らなきゃ
 
 ユウ、一緒に入ろうか?」

「うん」


 ----微かに聞こえる音

 それは、二人が湯船に同時に浸かったために、湯船から溢れ、零れ落ちる湯の音。

 排水溝に流れる湯を見つめている私の頬にかかる髪。その髪に触れる、細く長い指先。

 私の頬に触れる綺麗な手、あなたは反対側の頬に優しいキスをひとつ、くれた。

 私達は湯船の中、どちらからともなく裸の体を重ね、強く抱きしめ合う。

 強く抱きしめ合っているのに痛さなど微塵も感じない。
 
 母に抱かれているように柔らかで、私達は互いに深い安心感を得る。