さすがにいきなりするのはマズイよな。
女にとってのファーストキスって、大事なんだろ?きっと。
しかし、返って来た返事はこうだ。

「……23年の人生で、たった1回だけですけど」

キス、したことがあるっていうのか?
男と付き合ったことがないって、真っ赤な顔で答えておいて、キスはした事があるのか?
たった1回だけ?

なんだこの敗北感にも似た、イライラする気持ちは。
一体誰が、彼女のファーストキスを奪ったというのか。
これは、もしかして、嫉妬?
更に彼女との距離を詰めると、視線で逃がさないように絡め捕る。

「そいつは予想外だったな……」

それなら、ちょっとだけ免疫があるって前向きに考えてやろう。

「じゃあ、2回目」

顎を軽く持ち上げ、そっと優しく唇を重ねる。
その瞬間、心が激しく揺さぶられ、身体中が痺れたような不思議な感覚に包まれた。

俺は、前にも同じような経験したことがある……。
最近、記憶障害なのか、思い出せない事があるような気がしていた。
それは全部、蘭さんに関する事だ。

さっきの不思議な感覚は、最も大事な記憶を呼び覚まそうとしているんだ。
それを確かめたい、もう一度……。

「……目を、閉じて」

言われるまま目を閉じた彼女の肩に手を置き、もう一度、口づける。
全ての感覚を唇に集中させて、彼女の唇の熱を感じ取る。

ああ、やっぱり……。
なんてことだ。
俺は、もうとっくに、彼女に堕とされていたんだ。
今頃思い出すなんてな。
俺は、俺に嫉妬していたのか。

もしかしたら俺自身が気づかないように記憶に蓋をしていたのかもしれない。
しかしはっきりと自覚してしまった。
俺は、蘭まひろって女に、惚れてしまったらしい。