「修、実は、蘭さんにも男がいるぜ」

「………………………は!?」

鳩が豆鉄砲を食らうって、こんな表情なんだろうな。

「だから、蘭さんには……」

「嘘だろ!?そんな…そんなことって……。翔はその男を知っているのか!?」

「いや、俺もよく知らない」

俺自身のことなんて、よく知らないんだよ、俺。

「じゃあ真っ正面から見たことないのか?その男を」

「まあ、そうなるかな」

俺が俺を真っ正面から見ることなんて無理だろ。
鏡に向かってなら、あるけど。

「マジかよ……。どこのどいつなんだよチキショウ。もうすぐでまひろに会いに行けるというのに……!」

悪いな、修。
いまここで明かすわけにはいかない。
決戦はお前が帰ってきてからだ。
その時には堂々と受けて立つつもりだから。
もう少し我慢しててくれ……修。

俺は逃げも隠れもしない。
お前のライバルになったとしても。

「来月1日にまひろに会いに行く。正式な着任日がまひろに会う解禁日だと決めていたからな」

ということは、4日後ってことになるな。
決戦の日は。

「まひろの両親の離婚の原因、知ってるか?」

「いや、知らないけど」

「父親の浮気っていうことになってるらしいけど、いろいろと疑惑があって。あの時は本当に大変だったんだ。あんなに純粋で真っ直ぐなまひろが、ボロボロになったくらいだからな。まだ俺も若造だったから無力で何もしてやれなかった。俺はまひろを幸せにしてやりたいんだ。俺の手でな」

修の真剣な想いは解った。
だけど俺は一歩も引くつもりはない。

もし仕事中に会社に突然来られたりしたら厄介だけど、修だったらそんな真似はしないだろう。
会いに行くとしたら、2人きりになれるような場所を選ぶはず。
だけど、俺がそうはさせない。
こんな思いつめたような修と、蘭さんを2人きりで会わせるわけにはいかないからな……。