ページを更に捲っていくと……。
確かに、笑顔じゃない蘭さんもいた。
お昼寝中なのか、気持ち良さそうに眠っていたり。
喧嘩したのか、膨れっ面だったり。
怒られたのか、拗ねたような、いじけたような顔だったり。

そしてある1枚の写真が俺の目を釘付けにして、離さなかった。

………………泣いている。

その写真から泣き声が響いてきそうなくらいに、泣きじゃくっている蘭さんの姿。
心を鷲掴みにされたような衝撃を覚えた。

一瞬、頭の中に彼女の泣き顔が浮かんで消えた。
いつ?
俺はいつ蘭さんが泣いているところを見た?

俺が写真を凝視しているのに気付いた修が、話し出した。

「その泣いてる写真、俺が撮ったんだ」

当時の事を思い出しているのか、遠い目をして。

「普通ならこんなに号泣してるところなんて撮らないだろ。母さんと兄貴に責められたけど、どうしても撮りたかったんだ。笑顔だけじゃない、まひろの全てが欲しかったから」

俺が知っているのは、まだほんの一部分でしかない。
修が積み重ねてきた過去に嫉妬しても、時間は取り戻せない。

ただ、これから先が勝負だ。

「なあ翔、会社でのまひろってどうなんだ?部下としてどう思ってるか聞かせろよ」

"部下として"か。

「蘭さんとは、4月に俺が"教事1課"に異動してからの関係だからまだ日は浅いけど、パートナーとして仕事がやり易い。見かけによらず、デキる」

そうか、翔にそこまで言わせるなんて流石だな。ま、俺としては同じ道に進んでくれると期待していたから複雑だけど」

同じ道って……。
公認会計士、か。

「蘭さんも元々はお父さんの跡を継ぐはずだったってことか」

「ああ、本人がそう言っていたからな。中1か中2くらいまではな」

「じゃあ、その頃に……」

「まひろの両親が離婚した。それからだよ、まひろが別人みたいに変わってしまったのは」

それほどショックが大きかったというわけか。

「それで、今でもあんな感じなのか」

「あんな感じって?」

「愛想がなくて、変に大人びてて、化粧がケバくて、態度がでかくて……」

「酷い言われようだな。そうか、高卒で社会人になってからも大変だったんだろうな。高卒だったら、まひろは18歳で入社したんだろう」