「甘えるな!」

ビクッとした。
イチにぃが、私を……怒鳴った?

「これは仕事だ。お前の個人的な感情は慎んでくれ。公私混同すべきじゃない。それくらいお前にも分かるだろ?ひとりでやれって言ってる訳じゃないんだから。主担当はあくまでも佐伯だということを忘れず、いつものようにサポートしてやってくれよ。頼むぞ、まひろ」

さっきまで従兄の"イチにぃ"の顔だったのに、急に"宮本課長"の顔になった。
こういうところ、嫌いじゃないんだよね。

「分かりました。精一杯、やらせて頂きます……」

これで、緊急ミーティング……終了?
なんだか疲労がハンパ無い。
今日は早く寝て、明日からの怒涛のプロジェクト会議に備えないといけないよね。

「イチにぃ、もう済んだんだよね。私帰るけど、スッピンじゃ電車乗れないから送ってくれるでしょ?だいたい、イチにぃが早く来いって急かしたせいなんだから」


「実は今までのは単なる序章だ。本題はここから」

え……………。

「まだ、何かあるの?」

「さっきの叔父さんからの依頼の件だけど、蘭事務所の方の担当はお前もよく知ってる人物だったんだよ。誰だか分かるか」

私がよく知ってるって、父じゃなくて?
父は所長なんだから、事務所の他の人に任せるのが普通なんだろうけど。

「修一だよ。アイツが担当になった」

「えっ!?シュウにぃ?だってシュウにぃはまだ確か……」

「今引き継ぎ中で来月から完全にこっちに帰ってくるそうだ」

で、でも、早くない?
確か10年はあっちで修行だとか聞いたような気がするけど。

シュウにぃと最後に会ったのは、旅立ちの前日。
確か、6年前だ。
あの日のこと、もう忘れかけていたけどね。
シュウにぃは大学を卒業して、私は高校3年生。
あれ以来1回も会っていないシュウにぃのことを、ちゃんと思い出せるのか自信がない。