まひろの相手は、経理部の有田菜津美さん。
つい最近まで俺の直属の部下だった女性だ。
なにかきっかけでも作れればいいなと、不純な動機から2人が座っているテーブルに近付いていった。

なになに?2人で飲みに行く相談か? 今日がダメだから明日にしようって話がまとまりつつあった。
明日……俺は無理だな。

「ちょっと待った。悪いけど俺、明日は予定があって都合悪いから。うーんそうだな、来週!来週の金曜日にしようぜ。な、決まり!」

強引に話に割って入ったが、意外と簡単に受け入れられてしまった。
マジで、いいのか?
佐伯からの指示で作業が立て込んでいるらしく、俺に席を譲って去っていったまひろ。
邪魔者退場……いやいや、違う違う。
しかし予期せぬチャンス到来だ。
有田さんとは経理部でよく話していた方だと思うし、お互いの信頼関係は既に構築されているはず。

「有田さん、経理部の方はうまくいってる?まだ2年目なのに上司が変わることになったけど」

「はい、今のところは大丈夫です。まだ慣れなくて戸惑うこともありますけど」

「そう。もし何か困ったことあれば、俺にでもいいから相談して。部署は違っても一応上司には変わりないからさ」

"今のところは"って言い方は、先でなにか問題起こりそうな予感でもあるのか?
なんて、勘繰りすぎか。

「ありがとうございます、宮本課長。……ところでどうしてなんですか?」

「ん?なにが?」

「私たちの飲み会に参加するだなんて」

「あ、ああ。いやなんか2人が楽しそうに話してたから。女子会ってどんな感じか興味あるし」

「会社の飲み会ではご一緒したことありますけど、プライベートでは初めてですよね」

「あ、それなんだけど。その初めてってやつ、今日じゃダメかな」

「え!今日、ですか?」

「さっき、今日空いてるとか言ってたような気がしたんだけど」