「おおそうかそうか。宮本くんも佐伯くんも勉強熱心だ。これなら教事1課も安泰だ。これからは君たちにかかってるんだから、しっかり頼むぞ!ほら佐伯くんのグラスが空いてるじゃないか。宮本くんどんどん注いでやりなさい」

「部長のご命令とあらば、遠慮なく注がせていただきます。ほら佐伯、残ってるの全部飲んでしまえよ。佐伯もいい機会だから部長に将来の展望について、お前なりの見解を聞いていただいたらどうだ?」

…………めんどくせえ。

上機嫌の部長が木原課長を呼びつけて、宮本課長と3人で話し出した隙に然り気無く席を離れた。
イチにぃのペースに付き合っていたら潰される。
今ならまだ大丈夫みたいだから、少し外に出て酔いを冷ましてこよう……。





──翌日。

気がついたら、自宅で眠っていた。
あれ?酔いを冷まそうと外に出た後、どうしたんだっけな俺。

今何時だ?
バイブにしておいた携帯が、テーブルの上でガタガタ震えている。
気だるい身体を引きずるようにしてベッドから離れると、携帯に手を伸ばした。

電話だと思って通話ボタンを押して耳に当てたけど、何も聞こえない。
画面を見てみると、メールが来ていた。
イチにぃから。

"翔、まだ寝てるだろうからメールにした。昨日部長と話した通り、お前は月曜から水曜まで出張だから忘れるなよ!部長のお供だから、いい経験になると思うぞ。部長との待ち合わせ場所と時間も添付しておくから。じゃ、よろしくな。"

部長が出張に行く話は聞いていたけど、いつの間に俺まで行くことになってたんだ?
とりあえず確認のために部長に電話。

部長、部長と気軽に呼んでいるが、本当は『崎山(さきやま)本部長』と呼ぶべきなんだけど。
本人が、堅苦しいのは嫌いだから『部長』でいいと言って聞かないのだ。
部長の正式な役職名は『ラーニングセクション(教育関連事業)本部長』
ラーセク立ち上げの中心人物で、押しも押されもしないラーセクのトップに君臨するお人だ。
この部長は徹底した実力主義者だと言われている。その部長の下で自分の実力を試してみたいと思っていたからこそ、宮本課長の誘いを受けた。
実力主義……まさに俺の考え方に合っている。