「おめでたいに決まってるでしょ!………忘れててごめんね」

「いいよ。……あのさぁ、なつみん……」

誕生日と聞いて、あの日のことを思い出した。

「なあに?どうしたの?」

私の問い掛けに、特に表情も変えずに耳を傾ける、なつみん。

「うん。なつみんはさ、ファーストキスっていつだった………?」

「ファーストキス?えっと、笑わないって約束してくれるなら教えるけど。でもどうして?」

「ちょっとね。こんなこと聞けるの、なつみんしかいないから。笑わないから教えて!」

なんの脈絡もない私の質問にも、嫌な顔せず答えてくれようとしてる。
笑えるわけなんてないよ。
ただ、人の体験談を聞いてみたくなっただけ。

「うーんと、私ね、ファーストキスは………まだなの」

………なつみん、キスしたことないの!?

「そ、そうなんだ。ごめん変な事聞いて」

「ううん。もうすぐ24歳になるのにまだなんて、驚いた?」

「そんなことないよ!」

だって私だって、つい最近だったんだもの。
だけど、なつみんはとっくに経験済みだろうと勝手に思っていたから意外だったかも。

「じゃあ、まひろんは?私に聞いてきたって事は、なにかあったんでしょ。違うの?」

ぐ…………。
墓穴掘って失敗した。

「まあ、あったと言えばあったような。無かったと言えば無かったような。無かったことにしたいような……」

「ふーん。無理には聞きださないけど、言いたくなったらいつでも聞くよ。あ、そうだ!歓送迎会あったんでしょ」

げ!!なつみんって、おっとりしているようで意外と鋭い!?

「あったけど、私は途中で強制送還になったから」

「え……。木原課長と美里先輩と、まさかの修羅場!?」

「違うよ。いろいろと都合悪いことになって、ひとり先に帰ったの。修羅場なんて……」

なかったわよ、多分。

「しばらく会わなかった間にいろいろあったみたいね。でも、さすがにシャ食で話せるような内容じゃなさそうね」

「そうね。シャ食ではちょっとね。また今度ね……」
そうだった、ここはシャイン食堂だったんだった。場所を考えて話すべきだった。