「いいよ俺1人で。あとで翔にどやされちまう」

「できれば女性が一緒の方がいいんです。そこのご主人の機嫌が悪くなると困るので。まひろさんがいてくれたら、少しくらい時間が押してても機嫌を損ねずに済むと思うので……。すみません」

それじゃ菜津美をと思ったが、珍しく真剣な迫田の様子を見ると、邪魔したら悪いという気になった。

「まひろ、翔に一言声掛けてこい。突然いなくなれば心配するだろうから」

「あ、うん……」

あまり気が進まないような返事をして、翔の元に行こうとするまひろを霧島さんが呼び止める。

「佐伯さんには私から伝えますから。急いだ方がよさそうなんで、すみませんがよろしくお願いします」

結構人使いが荒いんだな、霧島さん。
追い立てられるように、荷物を車に積んで出発することになった。
返却先が分かりやすい場所にあるというのが幸いだ。

車を出すまで霧島さんが見送っているから、信号待ちを狙うか。


「くそっ、エラーになってメール送れねえ」

菜津美にメールが届かない。
さっき翔に送ったときは一発で送れたのに、何故だ。
信号待ちのチャンスを狙うが、思うようにいかないし。

しかし、霧島さんがまひろを俺に着けるとはな。
修一は、てっきり俺を遠ざけてまひろに迫るつもりなのかと思ったが、どういうつもりなのか?

菜津美……。
翔にメールで目を離さないように頼んだから、安心していいはずだけど、一抹の不安が拭いきれないのは否めない。
何もなければいいが……。

「ねえ、イチにぃ。なつみんから何か聞いてない?」

ずっと黙ったままだったまひろが、遠慮気味に口を開いた。

「……なんの話だ?意味が分からないけど」

「聞いていないなら別にいいの」

歯切れが悪いな、最近元気がないのは気になってたけど。

「お前まさか俺が気付いていないとでも思ってる?……翔と何かあったか」