「そういう有田さんは?"協定"のせいでお預け食らってるのは俺だけじゃないだろ。ま、俺たちにかなり厳しいと言わざるを得ないけど」

「おっお預けだなんて!そんなことは……。でも厳しいですよ一弥さん。だって名前呼びもダメだなんて」

そうだろ?いつまで俺は『蘭さん』なんて他人行儀な呼び方しないといけないんだ。

「蘭さん不器用そうだし、仕事とプライベートで呼びわけるのに混乱するかもしれないし。ま、そんなに気にしてないけど」

………嘘だけど。

「そうですか?でも、まひろの方はどうなんでしょうね。何も知らされてないんだし、このままの状態が続いたら不安になると思うんですよね」

「それは俺も考えてるとこなんだ。こっちから動けない以上待つしかないけど、時は満ちてきてるはずだ。今日のことも何かを企んでのことだろう。とにかく『相手に逆らわず、相手のフィールドで』っていうのが作戦らしいから」

"M"作戦とは別の……"S"作戦ってやつだ。

「かなり焦れてるんじゃないかな、まひろ。痺れを切らして、まひろの方から体当たりしてきたらどうします?想いをぶつけられたら、ちゃんと応えられますか?」

俺だってかなり焦れてる。
もうそろそろ我慢の限界。

「正直言って、そうなった場合の対応策は考えていない。その時はその時、ノープランだ」

「ノープラン、ですか。佐伯主任は完璧主義なのかと思ってましたけど、恋愛に関しては意外と不器用だったりします?」

………こいつ、エスパーか?

「有田さんは意外と鋭いところがあるんだな。実はイチにぃを上手く転がしてるんじゃ」

「ま、まさか!だって私、恋愛初心者ですから!まひろと一緒ですよ」

ふーん。
そう言えば、さっきから……。

「有田さん、蘭さんの呼び方変えた?」

「あ、本人にはまだ内緒ですけど。もう『まひろん』は卒業しようと思って」