「佐伯先輩にとっては不本意な異動だったはずなのに、そんなことは微塵にも感じさせない完璧な仕事振りでさ。広報では1年先輩になるのに、その1年で俺は何をやっていたんだろうって自信をなくしたよ」

宮本課長も言ってた。

『佐伯のスゴいところは営業力だけじゃないから、広報部でも期待以上の成果を上げたらしい』って…。

「それで俺も先輩に負けないようにやってやるって、対抗意識燃やすようになったんだ。そうするうちに少しずつ自信が持てるようになってきた。実力ではまだまだ先輩には敵わないけど」

迫田さんも佐伯主任に触発されて、仕事に対するモチベーションが上がったってことかな。
私だってそうだもんね。

「そんな先輩が今度は俺が元々希望していたラーセクに行っちゃったから、かなり羨ましかったよ。でも俺には広報の仕事が意外と向いてるって思えるようになってきたから、もう少し広報で頑張るつもりだけどね」

迫田さんって仕事に関しては真面目だったんだ。
ちょっと意外だなと思ってしまった。

「蘭さん、あのさ……。前にも聞いたけど、もう一回確認させて。蘭さんと佐伯先輩って、付き合ってるって本当?」

迫田さんってしつこい。

「そうですけど、何か?」

「そっかごめん。まだ信じられなくて。他言無用って先輩からも釘刺されたけど、このこと知ってるのってごく僅かなんだよね」

社内では、宮本課長と、なつみんと、迫田さん。

それ以外にはいないはずだけど、なんで迫田さんが知ってしまったのかが疑問だったんだよね。

「佐伯先輩からイベントの翌日に聞いた時には、本当にビックリしたよ。先輩って意外と手が早かったんだな」

え、イベントの翌日?
それって私が代休もらった日じゃない!
私たちが付き合うことになったのは、その翌日だったはず。
迫田さんの勘違い?
それとも、何かの罠だったりして。
この人の言う事をまともに聞かない方がいいような気がしてきた。