「蘭さんの手首、こんなに細いんだな。俺の手で握りつぶしてしまえるかも」

「それって、ホラーじゃないですか。私コワイの苦手なんですけど……」

「シッ、黙って」

シーンとした静寂の中に、ガチャッとドアが開く音と、抑え目な足音が聞こえてきた。
そこでやっとエレベーターのボタンを押して、じっと待つ。

「……………ゲッ!!」

やっぱり来たな、ネズミどもめ。

「ちょっと!アンタたち何処に行くつもりよ」

3匹のネズミたちが、まさか俺たちがまだここにいるとは思ってなかったようで驚いて立ち尽くした。

「あ、ちょっと喉が渇いたから、コンビニまで……」

信が苦し紛れに言ったところで、ちょうどタイミングよくエレベーターが到着。
計算通りだ。

「……どうぞ、コンビニ行くんだろ。気を付けて行って来いよ。なんなら、ついてってやろうか」

「あ、大丈夫です。アラにぃとマコにぃ意外と役に立つんで!主任さんは、おねぇとごゆっくり……。じゃ、いってきまーす」

あかりちゃんが早口で言うが早いか、エレベーターに乗り込んで下りていった。

「……主任ったら、もう」

「今日は邪魔されたくなかったからな」

「今日は……?」

ネズミたちを追い払って満足した俺は、周りに人気がない事を確認してから、蘭さんをそっと抱き寄せた。

「カレー美味かった、ありがとう。最後にとっておきの甘いやつを……」

いつ誰がやって来るかわからないこの状況で、ちょっとしたスリルを感じながらキスを交わす。
重ね合った唇からは、スパイシーな吐息が漏れている。

今日は程々にしておかないと……。
彼女の息が切れかかったのを感じて、名残惜しくも唇を解放してやると、甘い吐息が2人を包んだ。



──21:00。

蘭さんと別れてやって来たのは、イチにぃが住んでいるマンション。
今日、ノーザン申請を出していたのは俺と蘭さんだけじゃなかったのだ。

秘密の会合の度に心が荒んでいくような気がするのは、気のせいなのか。
蘭さんの家よりも、ここに来る頻度の方が高いって、どうなんだ?