「彼女からこんな嬉しいことをしてもらったのは初めてだ。だから今日は、ありがとう」

「あっいいえ、そんな。私こそ美味しいって言ってもらえて嬉しかったです!」

「俺たちって、似てるかもな。勘違いして見知らぬ誰かに嫉妬してたら、実は自分だったりして」

あ、ケーキのことか。
まさか、私が作ったのが美味しかったって言われてるとは知らなかったし。
でも、主任も?
自分に嫉妬したことあるの?

不思議に思いながら主任を見ると………ん?
プッと小さく吹き出したのを懸命に堪えようとしてる。

………………思い出し笑い?
私、なんか笑われるようなことしたかな。

「あ、いやごめんごめん。ちょっとコッチに……」

繋いでいた手を引かれて、エントランスから少し隠れた場所に来た。

「ココって人が来ないんだな」

「そうですね……」

そう言った途端に、更に手を引かれてバランスを崩した私は、主任の腕に抱き止められた形になった。

か、顔が近い……。

主任はチーズケーキの入った小さな紙袋を持った左手で私の腰を抱き寄せた。
そして右手は、なぜか私の頬を撫でている…。

「俺の好きなナチュラルメイクなんだな、今日は」

そう、主任のためのナチュラルメイク。

「そうです。素顔を見せる自信はまだないから」

「もう何回か見てるけど。緊急ミーティングとか、仮面が剥がれたやつとか」

「もう!何回も言わないで!」

「ははっ悪かった。そんなに拗ねるなよ。ご褒美やるからほら、こっち向いて……目を閉じて」

あ……また心臓が騒がしくなる。
有無を言わさぬ熱い視線を一度合わせてから、目を閉じた。

直ぐに与えられたキスは、優しくて温かい……。
次第に熱を帯びて、だんだんと深くなっていく。
吐息が混じり合い、息も絶え絶えになりながら、それでももっと深く主任の唇を感じたかった。
何度も角度を変えられ、舌を絡められながら、長い長い口づけに身も心も堕ちていった……。