「あれ?でも確か担任の先生って、吉田先生じゃなかった……」

言いかけてふと、シュウにぃが言っていたことを思い出した。

『本当の親父さんの3回忌』

この場で口にしていいものか。
代わりに口を開いたのは、佐伯主任だった。

「俺、幼い頃に吉田の父に引き取られたんだ。佐伯の父はもう亡くなってるよ。母と弟がいるけど、年に1回くらいしか会わないな」

そうだったんだ……。

「佐伯さんは、お父さんと2人暮らし?」

「はい。引き取られてからずっと、2人です」

「そうですか。じゃあ今日はお父さん1人で寂しいわね」

「いいんです。時間が合えば一緒に食べるけど、お互い自由にしてるんで。朝食だけはなるべく一緒に食べるようにしてますけど」

「まひろが一人暮らしだったら、もっと気兼ねせず2人で過ごす時間ができるんでしょうけど。私の身体が弱かったり、弟や妹がいるしで、ごめんなさいね」

お母さんったら……!

「まひろの初めての彼氏だから、私たち家族もみんな嬉しいのよ。これからも、まひろのことをよろしくお願いしますね。佐伯さん」

「俺、まひろさんとは真剣に付き合いたいと思っています。こちらこそ、よろしくお願いします」

な、なんかこんなの初めての経験で、照れる。

「佐伯主任、おかわりは?遠慮なく食べてくださいね!あとで、デザートもありますから!」

無駄に喋って微妙な空気を誤魔化した。

「どれも美味しかったけど、デザートも食べたいから。ごちそうさま。蘭さん、見かけによらず料理が上手いんだな」

「え、あ、どうも。お口にあったみたいで良かったです」

よっしゃ!
心の中でガッツポーズしてみた。
"見かけによらず"ってのは余計な一言だけど!
きょうは見かけだって、ナチュラルメイクにしたんだから。

「翔さん、今日は姉貴が張り切ってケーキ焼いてたから、期待していいかも!」