お店だし、主任の前だし、声を出さないようにして、静かに泣いた。

私が落ち着くのを待ってくれていた主任からの一言で、我に返る。

「車で待ってるから、その顔直して来いよ」

はっ!

「10分以内で」

そう言って立ち上がった主任は、スタスタと行ってしまった。
10分で直せるかな?

あの後ろ姿はもう、仕事モードの主任だ。
私も仕事モードに切り替えるべく、化粧室に急いだ。

「……遅い!もう15分は経ってるぞ。メイクはバッチリか?」

「すみません。最近ファンデーションの加減が分からなくなってきてまして。いかがでしょうか?」

鏡で確認してきたけど、自分の感覚ではまだ足りない気がするんだけど。

「俺的にはもっと薄い方が好みだけど、今日のところはそれでいい。行くぞ」

一瞬、顔を近づけられてドキッとしたけど。
そうだ、仕事モードだった。

「あの、行くってどちらへ?」

「…………RYUZAKI工房」

「えっ、RYUZAKI工房ですか。今日予定入ってましたっけ?」

確か連絡待ちだったはずだけど、先週の内には連絡なかったのに。

「蘭さんがいない間に龍崎さんから電話がかかってきた。急すぎたから断ったけど、気が変わったから」

「そうですか……」

前回は私だけ、その前は課長と訪問したRYUZAKI工房。
また貴浩部長に会うと思うと、変に力が入ってしまう。
なんというか、気楽には会えないお人だ。

そう言えば、貴浩部長は以前『佐伯さんが営業マンだった頃にお世話になった』と言っていた。
2人は良好な関係なんだろうか?
運転中の佐伯主任をチラリと盗み見るけど、無表情。
これからの打ち合わせのことでも考えているのかな。
私はとりあえずノープランで、2人の邪魔にならないように気を付けよう。