必死に涙を我慢して、言葉が出てこなくなった。
口を開こうとすると、連動して涙腺が刺激されるようで、どうしたらいいのかも分からなくなって。

少しの間の沈黙を破ったのは、主任だった。

「無理しなくてもいい。辛いんだろ?話して楽になるならいいけど、辛いのを我慢するな」

私、無理してたのかな。
辛いことかもしれないけど、きっと聞いて欲しかったから……。

「こんな話、誰にもしたことがなくて。誰にも相談とか出来なかったから」

「課長や修にも?」

「出来ませんでした。イチにぃやシュウにぃは大体の事情を知っているし、同情して欲しくなかったのかな。ちっぽけなプライドだったのかな……」

「じゃあ、俺に話すのが初めてなんだ」

「はい、初めてです。実は私の両親の離婚の原因、父の浮気なんです。相手の女の人が妊娠してしまったようで……。しかもその浮気が発覚したあとに、母の妊娠も分かって……それで……」

ああ、私ってこんなに脆くて弱かったんだ。

「辛かったんだな。もう、そんなに頑張らなくていい。俺の前では我慢したり強がったりしなくていいから……」

こんな弱い私でも、いいの?

「これからは、俺がいつでも話聞くから。ひとりで抱え込むなよ。だって俺たち付き合ってるんだから、な」

ホッとして、肩に圧し掛かっていたものがすこし軽くなったような気がした。
約10年間、ずっと圧し掛かったままだったのに。
やっぱり私、平気な振りして強がっていたんだ。

「佐伯主任、今日は優しいですね。そんな優しい事言われたら、泣いちゃいそうですよ」

「泣きたいなら泣いていいぞ。ここは会社じゃないんだし、今は仕事中でもない。なんなら、俺の胸だって貸してやってもいい」

あ、そうか……。
今日は外勤の予定なんて入ってなかったのに、わざわざ連れ出してくれたのは……。

もう、主任の顔がぼやけてちゃんと見えない。