「花莉」
名前を呼ばれて、「…なに?」と抱きしめられたまま返事をした。
「引越し、3月の下旬になったから」
「…うん」
引越しするのは、安全のため…だけど、少し寂しいなんて思ってしまう。
たくさんの思い出が詰まった部屋だから。
詩優に初めて助けられた日、ここへ連れてきてもらって。それからたくさんのことがあった。
同居することになったり、みんなでたこ焼きパーティーや闇鍋、それから勉強会だってしたっけ。
好きな人から告白されたのも、初めて好きな人と結ばれたのもこの部屋なんだ。
みんなと離れるわけではないけど……。
やっぱり寂しい。
「……それでさ、もし良かったらなんだけど」
さっきよりも真面目な声が耳に届く。何かな、と思い顔をあげようとしたところで詩優は私の体を離した。
顔を上げて、詩優と目を合わせると…。彼があまりにも真剣な目をしていたから心臓がドキリと鳴る。
ずっと見つめていると吸い込まれてしまいそうな目。



