「俺を助けた男が、こう言ったんだ。生きたければ私の肉を喰え、生き血を啜れ。と。俺は無我夢中だった。この男の肉を喰わなければ、生き血を啜らなければ、自分は死んでしまう。
その思いに囚われ、血腥く、生暖かい血肉を喰らっては何度も吐き出しながら、願ったんだ。生きたいと、まだ死にたくはないと……」
まるで何かの作り話のような凄惨さに、さくらは目蓋を閉じる。だが、作り話と言うには、あまりにも詳細で言葉が一つも出てこない。
「それで……煉は、どうなったの」
「信じてはもらえないかもしれないが……俺は死することが出来ない身体になっていた。
この首の皮膚が引きつった大きな傷痕も、背中と腹部の創傷も、その他の小さな傷痕も、何もかも全てが、永い刻を過ごして何度も自害をしようとした時の傷痕だ」
煉は自身の傷痕の一つ一つをなぞりながら、哀しそうな表情を浮かべる。
何となく気づいてはいた。煉が普通の人ではないということを。でも、そんな話はあるわけはないと、心の何処かで自分のそんな考えを否定していた。
さくらは脳裏に思い浮かんだ答えを、そっと述べる。
「つまり、不死身ってこと……?」
「ああ、そうだ」
煉は肯定した。
だが、次に続く言葉を言い淀む。
「……いや、今は『だった』とでも言うべきか。死ぬことが出来なくなった俺は、気がつけば百年以上もの間、様々な時代をさ迷い、今日というこの日まで生き続けてきたんだ。だから、本当の年齢は百五十歳を裕に越えている」
「百五十歳以上……!?」
煉の実年齢が百五十歳以上だと言われても、見た目は二十代そのもので実感が湧かない。



