「今日はこれで、許してやる」
「なっ!!」
さくらの反応を見ていた煉は、含み笑いをしていた。完全にからかわれていると知り、怒りか羞恥か、全身に火照るような感覚が広がる。
「カレー、出来たぞ。好きなだけ食べるといい」
「じゃあ、大盛りでっ!!」
「可愛げが無いな」
そう言いながらも、煉は嬉しそうに微笑みながら、さくらの注文通りに大盛りのカレーを皿に盛り付けていた。
「さくら、ちょっといいか。話がある」
夕食を終え、お互いに入浴も済ませた就寝前の時間に、煉は珍しく改まってさくらをリビングに呼びつけた。
「うん。丁度、私も話したいことがあったの」
就寝着に着替えたさくらは、少し緊張した面持ちで煉と向かい合うように座る。
どちらが先に話を切り出すのか、互いに様子を伺う。少しの間を開けた後、口を開いたのは煉の方だった。
「……他人に、このことを話すのは初めてだ。だから、上手く伝えられないかもしれない。それでも、聞いてくれるか?」
「うん」
いつもとは違う只ならぬ雰囲気に、さくらは息を飲み、次に続く言葉を待ちわびた。
「なら、今から少し昔話をしよう。……俺は元々捨て子だったんだ。遠い昔、飢えを凌ぐために森をさ迷い倒れていたところを老夫婦に助けられた……」
煉の唐突で衝撃的な物語の始まりに、さくらは驚きを隠せなかった。



