意識が回復した翌日、煉は精密検査を受けた。結果、奇跡的なほどに身体には何の異常もなく医師から退院の許可が下り、無事にさくらの自宅マンションへと帰宅した。
そして、目下。
煉は病み上がりの身体で台所に立っている。
「何も退院した日に作らなくても……」
「俺のカレーを食べたいと言ったのはお前だろう。寝てはいたが意識はあったからな。お前の願いは聞こえていた」
「え!? わ、私、何か変なこと言ってなかったよね……煉の悪口とか」
「それはないが……ほう? 俺の悪口を言っていたのか?」
煉は、鍋の中で美味しそうな香りを漂わせているカレーを混ぜながら、胡乱《うろん》げな視線をさくらに向ける。
「いえ、言ってないです……」
共に生活を始める前までは、煉のことをおかしな人だと変人認定していた時期はある。だが、一度も悪口を言った覚えは、自分の意識がある限りではない。なのに、疑われると妙にそわそわとしてしまうのが人間の性《さが》なのか。
「怪しいな」
「え?」
「俺の悪口を言っていないという証拠を示したら、納得しないこともない」
「つまりは……どういうことでしょう?」
嫌な予感がよぎり、さくらは問いをはぐらかす。
「…………」
もしかしなくても、これは怒っているんじゃ……。
取り敢えず謝罪をした方がいいのかもしれないと、さくらが慌ただしく思考を巡らせていると、不意に唇に柔らかな感触が伝わる。
煉に口づけを交わされているのだと気がついた時には、すでにその唇は離れていた。
一瞬のことで思考が追い付かず、さくらは惚けたように煉を見つめる。すると、煉は再度、身体を寄せ、さくらの耳許で囁いた。
そして、目下。
煉は病み上がりの身体で台所に立っている。
「何も退院した日に作らなくても……」
「俺のカレーを食べたいと言ったのはお前だろう。寝てはいたが意識はあったからな。お前の願いは聞こえていた」
「え!? わ、私、何か変なこと言ってなかったよね……煉の悪口とか」
「それはないが……ほう? 俺の悪口を言っていたのか?」
煉は、鍋の中で美味しそうな香りを漂わせているカレーを混ぜながら、胡乱《うろん》げな視線をさくらに向ける。
「いえ、言ってないです……」
共に生活を始める前までは、煉のことをおかしな人だと変人認定していた時期はある。だが、一度も悪口を言った覚えは、自分の意識がある限りではない。なのに、疑われると妙にそわそわとしてしまうのが人間の性《さが》なのか。
「怪しいな」
「え?」
「俺の悪口を言っていないという証拠を示したら、納得しないこともない」
「つまりは……どういうことでしょう?」
嫌な予感がよぎり、さくらは問いをはぐらかす。
「…………」
もしかしなくても、これは怒っているんじゃ……。
取り敢えず謝罪をした方がいいのかもしれないと、さくらが慌ただしく思考を巡らせていると、不意に唇に柔らかな感触が伝わる。
煉に口づけを交わされているのだと気がついた時には、すでにその唇は離れていた。
一瞬のことで思考が追い付かず、さくらは惚けたように煉を見つめる。すると、煉は再度、身体を寄せ、さくらの耳許で囁いた。



