「そうか。……それで、お前はどうするんだ、これから」
煉は有限の人間に戻った。だが、この男は不死身のままだ。これからも、永遠に孤独に、刻《とき》をさ迷い続けるのか。相手への不安感が残る。
『……いや、どうやら、私もそろそろ時間のようだ。お前が不死身を解いたお陰で、私の無限の針が刻を止めたようだ。これで、ようやく眠りに就ける……』
鮮明だった男の姿が、靄のように揺らぎながら徐々に薄れていく。男の声が煉の脳裏で幾度も反響し、ゆっくりと離れ始める。
「ま、待て! お前にはまだ聞きたいことがあるんだ!!」
懇願するように、煉が男に向けて手を伸ばすも、距離は遠退いていく。
『今まで、ずっと。お前を苦しませて、すまなかった……』
その言葉を最後に、白髪の男は花火が爆ぜるように呆気なく消えた。
煉が生死をさ迷う度に、忽然と姿を現した男は最後の最後まで身勝手で、謎に包まれた男だった。
そして、もう二度と彼と再会することはないのだろう、と煉は胸裏で相手に別れを告げた。
◇
「ん……」
男が消えた後、さくらは時を見計らったように目覚める。
「起きたか」
「れ、ん……? 目が……覚めたの? わ、私のこと……分かる?」
さくらは意識が回復した煉が、ベッドから起き上がっている姿を目の当たりにし、驚きで思考が混乱する。
煉の意識が戻ることをさくらは、ずっと、待ち望んでいた。嬉しさと安堵が込み上げ、自然に瞳から涙が溢れ頬を伝う。
「ああ。心配を掛けたな」
「良かった……本当に良かった……。私、煉がこのままずっと、目覚めなかったらどうしようって、凄く怖くて……。なのに、何も出来なくて……」
胸の内から伝えたいことが涙と共に次々と溢れるのに、嗚咽が邪魔をして、上手く伝えられない。
煉の腕がさくらの震える身体を、優しく抱き留めて包み込む。
とても、温かい。煉の規則正しい鼓動が聞こえる。生きている証が、ここにある。無言の静かな空間が、今はとても居心地が良かった。
「もう、何処にも行かない。……お前を悲しませたりはしない」
「……うん」
不器用な煉が懸命に紡ぐ慰めの言葉に嬉しくなり、さくらは煉に包まれ泣き笑いのまま言葉を掛けた。
「煉……お帰りなさい」
「……ただいま、さくら」



