『そんな私を、お前は恨んでいるのだろう』
「もう過ぎたことだ。だが、恨んだ時期がなかったと言えば嘘になる。しかし、それは自分が望んだことであって、お前が全て悪い訳ではない」
もし、あの時。この男が手を差し伸べなければ、俺はさくらと出逢うこともないままに、とうの昔に消えていたはずだ。
だから、不死身だったことに今では感謝さえしている。
『……そうか。強いな、お前は。……私は孤独に勝てなかった敗者だ。他人を恨み羨み絶望に囚われた哀れな人間の末路そのもの。……何が、お前をそこまで強くさせたのかは、言うまでもないな。その娘がお前を……』
──強くさせたのだろう。
男の言葉に、煉は胸の内で秘かに肯定する。
そうだ。さくらと出逢ってから俺は、自分自身でも解るくらいに内面が変わった。それは、ずっと孤独に生き続けていた自分に、生きることの純粋な楽しさを、さくらが教えてくれたからだ。
無意味に他者との交わりを持ち身体で寂しさ埋めていた自分に、さくらは心で応え、満たしてくれた。今もこうして、離れず傍にいてくれる優しさに俺は、幾度となく本当は救われていたんだ。
死ぬことへの恐怖と不安に駆られ、煉は男に問う。
「俺は、このまま死ぬのか?」
『いや、死にはしない。だが、不死身ではなくなった以上、今までのような無理は出来なくなる。自身の命を顧みず他者を助けるのは、控えた方が良いだろうな』
俺は永く生き過ぎた。本当ならば、もう生きるのは疲れたと、投げ出してしまいたい。だが、その考えを踏み留める。理由は、さくらの言葉が胸に残っていたからだ。
──私、煉のカレーが食べたいよ……。
その願いを叶えるまで、俺はまだ死ねない、死にたくはないという強い思念が、煉の生きたいという気持ちを強固なものに変えていく。



