不死身の俺を殺してくれ

 要するに、相思相愛でなければ、この呪いは未だ解けずに、永遠に自身を蝕み続けていたというのか。

 長年、解決方法を探し求め続けていたものが、こんなに身近なことだとは思わず、盲点だった。

 そうか、なら、さくらは俺のことを……。

 今さらながらに、さくらの想いに気付く。

 暫しの静寂が二人の空気を満たした。男は病室の天井を仰ぎ見ると、やがてゆっくりと自身のことを語り始めた。

『……心から愛し愛された男女の絆は、想いというのは、何にも代えられないほど偉大だ』
 
 男は優しく微笑み呟く。なのに、その笑顔は何処か悲しげで、煉は、まるで昔の自分を鏡越しに見ているかのような錯覚に陥る。

『……少し、昔話をさせてくれないか。気付いていると思うが、私にも不死身という呪いが掛けられている。恐らく産まれたときからだろう。私はこの呪いを解くために、数え切れないほど様々なことを試行錯誤した。

 だが、それでも、この身は変わらず朽ちることはなかった……。年老いることも出来ずに、ただただ、永遠に永い刻を過ごすというのは、気が狂いそうになるほどに、とても辛かった……』

 同族としての同情だろうか。男の話を聞き、煉の心に芽生え始めていた複雑な感情は、ゆらゆらと揺れ動く。

 俺自身、何度、世界を恨んだか分からない。
 どうして、願ってしまったのかと。

 死ねないことが、こんなにも辛く苦しいものなのかと、ずっと嘆き喘いでいた。

 人は皆、永遠の命と若さを願い求める。

 永遠を願うことは自由だ。だが、叶った時の代償を皆は知らないのだ。

 孤独に生き続ける悲しさと、大切な人を見送り続ける苦しさを。

『周りから、世界から、私だけが切り取られ、見放されたような気分だった。

 死ねる人間が羨ましかった。同時に妬ましくも思った。どうして、私は死ねないのだと。もう、生きるのは疲れたと何度も何度も、願っても誰も私を殺してはくれない。

 そして、何百年も生きながらえ思考した果てに、私はお前を身勝手に不死身へ変えたのだ。身代わりになればいいと……』

「だが、ならなかったんだな。身代わりに」

『そうだ』

 男が身勝手に願った想いは、そのままの形で煉へと受け継がれてしまった。

 それが、不の連鎖の始まりだった。