不死身の俺を殺してくれ

 一つだけ、心当たりがないこともない。

 だが、あんな極僅かな一滴の血液に一体何の効力があるというのか。そう思いながらも、煉は躊躇いがちに結論を口にする。

「さくらが指先を切った時の血なら舐めたことがあるが……」

 あれは何時の日のことだったか。煉が、さくらにカレーの作り方を教えようと躍起になっていたときだ。

 具材の下準備をしていたさくらは、包丁で左手の指先を負傷し、煉は反射的にその血液を口に含んだのだ。
 
 さくらの血液を口にした時の違和感は、この事だったのかと今なら合点がいく。

 血液に甘味を感じたのは、さくらの血が何か特別なものだったからに違いない。

『……なるほどな、原因はそれかもしれない。それが引き金となり、お前の不死身の効力は消えた……』

「意味が解らないんだが。そもそも、お前はどうして此処にいる?」

 白髪の男と会話をしている間も、さくらは目覚めることはなく、穏やかな寝息を立てている。余程、疲れているのかもしれない。

 しかし、煉の疑問は最もだった。

 何故、不死身にした張本人が、同じく時代を越えて現代にいるのか。

『それを話すとなると、途方もなく話が長くなるのだが……』

「勘弁してくれ。こっちは病み上がりなんだ、手短に頼む」

 男は腕を組みながら、少し困惑した表情を浮かべて答えを濁す。煉はうんざりした様子で、ため息を吐いた。

 只でさえ、一週間程眠ったままでいたため、身体のあちこちが凝り固まっているような感覚に思わず顔をしかめる。

『……生身の人間に戻ったんだ、お前は。愛した女性の一部、つまり、血や肉を身体に取り入れることによって、不死身の効力は無力化されるようだ……何とも浪漫的な話だが。

 人を愛することを忘れ、死ぬことばかりを追い求め続けていた私には、到底叶うはずのないことだったな』

「…………」