『久しいな、煉よ……』
「……だれ……だ」
煉はその声を聞いた後、先ほどまで感じていた無力感と拘束感が嘘のように消え去っていることに気が付く。意識が覚醒し、脳裏に停滞していた靄が徐々に晴れていく。
そして、病室のベッドからゆっくりと起き上がる。左側には頭を伏せて眠るさくらの姿が見えた。満足に睡眠が取れないくらい、心配を掛けていたのかと思うと胸が酷く痛んだ。
煉の目の前には、長い白髪を背に流し和装に身を包んだ一人の男がいた。
『覚えてはいないか?』
「知らん……と言いたいところだが、予想はついている」
男の顔に見覚えもなければ名前も知らない。だが、直感的に察した。
この男は──あの時のあいつだ。
『そうか。ならば、話は早い。どうやら、煉、お前は不死身ではなくなったようだ』
唐突に本題を切り出した男は、無表情のまま煉に告げる。
そんなことは、不死身ではなくなった自分自身がよく理解している。俺が聞きたいのは、そんなことじゃない。その理由だ。
煉は苛立たしげに問い返す。
「ならば、理由を言え」
『そうだな……近頃、お前は人間の血液を摂取した覚えはないか?』
「血……?」
血液を好き好んで摂取する趣味は生憎、俺にはない。俺は吸血鬼ではなく、ただの不死身だ。いや、──不死身だった。
男に促され、煉は仕方なく眉間に深くしわを寄せて、暫しの間、思考する。すると、やがて一つの結論に辿り着いた。
……いや、まさか。あれが、そうなのか?



