「煉。今日はね、報告があるの……煉を傷付けた犯人が自首したのよ。時間が掛かるかもしれないって思っていたから、少しほっとしてる。けど、煉が目を覚まさないなら、それも意味がないじゃない…………。お願いだから、戻って……来てよ……煉……」
見舞いのために病室に訪れたさくらは、未だ眠り続けている煉に静かに語り掛ける。
煉に傷を負わせた犯人は未成年の少年だった。警察官の話によると、あの日、煉が倒れていた場所で少年同士の争いがあり、運悪く通りすがった煉が事件に巻き込まれてしまったという。
どうして、こうなってしまったのだろう。私があんなことを言わなければ……。
いくら自分を責めても、時間はもう二度と戻らないと理解ってはいるのに。
気を張り無理をして毎日、悲しみの滲む笑顔を保つ。それなのに、ふとした瞬間に涙が溢れてしまいそうになる。
言わないで後悔をするより、言って後悔をしたかった。
だって、私。
まだ、煉に想いを伝えてない。
本当は凄く好きだってことを。
「今日は一日、煉の傍に居られるからね。だから……起きてくれるのを待ってる」
さくらはベッドで穏やかに眠る煉の髪や頬に優しく触れる。指先には煉の身体が発している熱が伝わる。温かい感触に煉は今も生きているという実感が湧き、目頭には熱いものがぐっと込み上げてきた。
大丈夫。煉はここにいる。
息をして、ちゃんと生きている。
だから、きっと大丈夫。
自身の心に何度も強く言い聞かせ、押し寄せる不安を振り払う。
「私、煉のカレーが食べたいよ……」
さくらが小さく呟いた切なる願いに反応するように、煉の指先が微かに動いた。



