さくらが悩み思考に耽りアイスコーヒーのグラスに視線を落としていると、優はさくらの先程の言葉で、何か確信を得たのか小さく呟く。

「……やっぱり、そうなんだ」

「え?」

 思わず顔を上げると優と視線が合う。いつもの優しげで柔らかな雰囲気は、完全に鳴りを潜め、代わりに強い意思がその瞳に宿っていた。
 
「八重樫くんは、そんな事少しも思ってないよ」

「な、何言ってるの……?」

「気付いてないの? 八重樫くんはさくらのこと好きみたいだよ」

「す、き……? 八重樫くんが……私を?」

 何時から? そんな疑問が頭をもたげる。

 確かに関係が拗れてしまう前までは、八重樫はさくらに対して好意的な態度だった。だが、それは一人の友人として親しくしていたので有って、異性としての意識ではないと思っていた。

 根本的な概念が崩され、目の前が真っ白になる。

「二人があまりにもすれ違ってるから、私、ちょっと我慢出来なくなって……。お節介なのは分かってたんだけど。でも、八重樫くんは誠実な人だから、さくらを幸せにしてくれるかなって思ったの」

 優の言葉が脳裏を駆け巡る。
 閉じた視界に映るのは、会う度に、いつも何処か照れた微笑みをする八重樫くんの姿だった。

 その表情に隠されていた、本当の意味を理解する。

 ずっと前から、八重樫くんは私のことを好きだったということを。

 なのに。それなのに、私はその気持ちに気付きもしないで、傷付けることばかりしていた自分に酷く腹が立ち許せなかった。

「八重樫くんは、きっと、さくらを待ってると思うの。……仲直り、しない?」

「仲直り……」

 優の言葉が、胸を突く。

 出来るなら仲直りはしたい。何時までも、こんな風にあからさまに避けたりしたくない。でも、駄目なの。私は八重樫くんの気持ちには、きっと答えられない。だって、私は、私は──。