前日に、優から外ランチに誘われていたさくらは、昼休みに入ると優と共に会社から少し離れた場所に位置する、お洒落なカフェへ向かった。

 優が敢えて前日にさくらを誘ったのは、ここ最近、弁当を持参しているさくらへの気遣いだろう。

 お互いに好きな物を注文し、料理の品が届くまでの時間を他愛ない会話で弾ませる。

 一足早く、優の注文をしたサンドイッチセットとアイスティーが運ばれて来ると、優は今までの楽しげな空気を改めて、話題を変えた。

「ねぇ、さくら。ちょっと……良いかな? 聞きたいことがあるんだけど……」
 
「ん、何? どうしたの?」

 優は運ばれて来たサンドイッチには手を付けず、何処か浮かない顔をして問い掛ける。

 さくらは此処に来た時から何となく、こうなることを予想していた。

 店内に控え目に流れている洋楽が、やけにはっきりと聴こえ、冷たいアイスコーヒーのグラスが指先を冷やしていく。

「もしかして、なんだけど。さくら、彼氏……でも出来た?」

「え? いない、けど……。ど、どうして?」

 躊躇いがちに尋ねてくる優の姿を見て、その予想は確信に変わった。今日、優がこの場所に私を誘った理由を。

 やっぱり、何時までも誤魔化すなんてことは出来ないよね。優に対してなら尚更。

 私だって、何時までも隠し通せるなんて思っていなかった。ただ、言う勇気がなかっただけだ。

 何て言おう、どう説明しようって。

 なのに、結局答えは出せないまま、ずるずると今日まで過ごしてきた。

「そっか……。実はね、私。最近さくらの様子がおかしいなって、ずっと思ってたの。その……八重樫くんと何かあったのかなって」

「八重樫くんは……何も悪くないよ。事情は、まだ優に話せないけど、私が傷付けるようなことをしてしまったの……八重樫くんに。だから、私は嫌われて当然なのよ」

 やはり優が気に掛けていたのは、八重樫のことだった。

 ある日を境に二人は自然と距離を置くようになり、顔を合わせても何処かギクシャクとしていて、それは今も変わらず続いている。

 そんな二人の曖昧な空気を察知しているのに、気にならない方がおかしいのだ。

 だが、八重樫とのことを話すとなると、どうしても必然的に煉のことを明かさなければならなくなる。さくらは未だにその迷いに対して踏ん切りが着かずに、こうして優に嘘を吐き続けていた。