さくらは問い掛けながら、ジリジリと煉との距離を狭めて行く。そして、大きな言葉の爆弾を煉の脳内に投下した。
 
「私のこと、すきですかぁ?」

「…………」

 至近距離で上目遣いをされて逃げ場を失った煉は、さくらの問いに目を見開き硬直する。

「煉? ……煉さーん。おーい、聞こえてますかー」

 突然、何の反応も示さなくなった煉を疑問に思い、さくらは煉の眼前で思い切り手を上下左右に振りかざす。すると、その手を煉に素早く捕まれた。

「わっ!」

「お前は……俺を何処まで挑発するんだ」

 怒りなのか、それとも別の感情なのか。煉の表情はいつか見たときと同じように赤らんでいた。

 煉に掴まれた手首が熱く感じる。だが、それは痛みではなく、さくら自身が発している身体の熱だった。

 先程まで気分良く酔っていたはずなのに、意識が覚醒し始め目の前の現実が朧気に見えてくる。

 あれ? ……何、これ。
 私、煉に何て言ったの……?

「好きだと言ったら、お前は……さくらはどうするんだ」

 煉が……私を好き? そんな訳ない。きっと、私をからかってるだけで……。朝のことだって、きっと……。

 醒め始めた意識で、必死に思考を巡らせる。不意に、掴まれていた手首が引かれ煉の胸に勢い良く飛び込むと腰に腕を回される。さくらは反射的に腰を引いたが、煉の腕の力が強く離れることは出来なかった。

 一寸の距離で、互いの視線が絡み合う。

 煉のその瞳は、完全に熱に浮かされ捕食者の瞳をしていた。

「れ、ん……あのっ……」

「どうするんだと聞いている」

 視線を反らし逃げようとするが、顎を持ち上げられると、さくらは最早どうすることも出来ず、観念したように目蓋を強く閉じた。呼吸をするのも苦しくなり、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

「私も、煉が……好き……だけど」

「それは本当なのか?」

 事実を確認するように、煉はさくらの瞳を見つめ続ける。羞恥が限界を越え、耐えられなくなったさくらは、答えの代わりに肯定の意味を込めて微かに頷く。

「そうか」

 私、どさくさに紛れて、とんでもないことを煉に口走ってしまった。本当はこんなことを、言うつもりなんてなかったのに。

 恥ずかしさで顔を上げることが出来ずに俯く。今はとにかく羞恥に染まった顔をこの煉に見られたくはなかった。

 ぎゅっと目蓋を閉じたまま、煉がこの場から立ち去ることを祈っていると、何故か耳許に違和感が走る。

 そう、さくらは──。

「ひゃああっ!!」

 煉に耳朶を甘噛みされていた。