不死身の俺を殺してくれ


 朝の満員電車に揺られていると、先程のことが脳裏に鮮明に蘇ってきた。気恥ずかしさがこみ上げてくると同時に、煉に対する疑念も湧き上がる。

 どうして、煉はあんなことしたんだろう。ただの気紛れなのかな。にしては、何時もとは様子が違う気がする。

 いくら考えても、その理由は解るはずもなく、さくらは仕方なくため息を溢した。

 きっと、その疑問の答えは、本人に直接問う以外には方法はないのかもしれない。

 ◇

「さくら、お弁当作ってきたの?」

 昼を迎え、周りの社員達が各々食堂へと散っていく中、さくらは煉の手作り弁当をバッグから、そっと取り出す。

 その一連の行動を見ていた優の第一声は驚きに満ちたものだった。疑念が浮かぶのも無理もない。何故なら優は長年の友人関係で、さくらは料理が苦手ということを知っていたからだ。

「そ、そう。節約しようかなって」

「そうなんだ。休憩室じゃなくて、ここで食べるの?」

「うん。だから、優は気にせず食堂で食べてきて」

「……今日はそうしようかな。でも、今度は私もお弁当持参するから、またあの時みたいに一緒に外で食べようね」
 
 優が財布を手にオフィスを出て行くのを見届けた後、さくらはドキドキとしながら、お弁当を包んでいる風呂敷をゆっくりとほどいた。そして、思わず独り言が溢れた。

「可愛い……」

 目の前に現れたのは、淡い桜色を基調とした大人の女性受けをしそうな可愛らしい、お弁当箱で、大きさも丁度良い。あの煉が選んだとは思えない程、とてもセンスの良いデザインだった。

 こんな可愛らしいお弁当箱、煉はいつ何処で買ってきたんだろう。しかも、お箸も同じデザインのセットの物を。

 煉が自分の為に、このお弁当箱を選んでくれたのかと思うと、さくらは嬉しさで自然と顔が綻びた。

 肝心の中身はどうなのだろうと思い、蓋を開けると煉が言っていた通り、確かに一般的な内容で安心する。

 だし巻き玉子や唐揚げといった、お弁当では定番の品の数々が、小さめのお弁当箱にぎゅっと詰め込まれていた。その美味しそうな香りに空腹感が刺激され、さくらは躊躇うことなく一つ目のおかずに箸を伸ばした。

「では、頂きます」