不死身の俺を殺してくれ

 翌日を迎えると煉は約束通り、さくらの為の手作り弁当を用意していた。

「昨日、リクエストを聞けなかったから、一般的な弁当にしておいた」

 朝食後、煉は可愛らしい桃色の風呂敷に包まれた弁当を、さくらに差し出す。しかも、お弁当と合わせて保冷剤入りのミニバッグまで完璧に用意していた。

 細かいところまで気が回る煉の姿は、まるで母親のようだった。

「あ、ありがとう」

「何だ。やはり迷惑だったか?」

 煉の手際の良さに少し戸惑っていただけで、弁当が嬉しくない訳ではない。料理上手の煉が作った弁当だ。美味しさは無論保証されている。それだけで安心感があるというものだ。

 最近は昼に社員食堂に向かうのも億劫になりかけていたが、弁当が有ればわざわざコンビニに向かう必要もない。

 そう思うと、さくらは煉のお陰で少しだけ気分が上昇していた。

 さくらは受け取ったお弁当の中身が崩れないように、丁寧にバッグに仕舞う。玄関に向かいパンプスを履いて、煉に挨拶の言葉を掛けた。

「行ってきます」

「ああ、ちょっと待て」

 見送りの為に玄関前に立ち尽くしていた煉は、何かを思い出したように、さくらを引き留めた。

「何?」

 振り向き煉を見上げると、さくらは何の前触れもなく抱きすくめられていた。

 煉の突然の行動に驚き、目を見開く。

 さくらの頭を優しく撫でながら、煉は耳元で低い声を響かせて呟く。その声音はとても慈悲に満ちたものだった。

「あまり無理はするなよ」

「……う、うん」

 目下の現状について行けず、さくらは放心状態で無意識的に返事を返す。その間も、さくらの鼓動は煩いくらいに鳴り響いていた。

 煉の抱擁から解放されたさくらは、羞恥で自身の顔が紅く染まっているのが分かり、煉の顔をまともに見ることが出来ないまま玄関を後にした。