「ああ、任せろ。栄養面も考えながら、さくらの注文通りに作ろう」
「なら、お願いしますね」
さくらが了承すると煉は、本来ならば面倒事が増えて嫌なはずなのに、何故か嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「それで……もう一つ話があるんだが……」
「ん? 何ですか?」
煉は先程までの柔らかな表情を改めると、少し言いにくそうに躊躇しながら、やがて決心を固めたように、さくらに質問をした。
「あの男は……お前の彼氏か?」
「あの男……?」
さくらは、煉の言う『あの男』について、一瞬誰のことを指しているのか解らずに、首を傾げる。
「酔って帰ってきた日があっただろう。もし、その相手が彼氏ならば申し訳ないことをしたと思っている」
「え? ち、違います! 八重樫くんとはそんな関係じゃありません!! むしろ、嫌われちゃったと思うし……」
どうやら、此方は此方で、八重樫に対して有らぬ勘違いをしていたらしい。そう言えば、煉には会社の後輩だとしか紹介をしていなかった気がする。煉の疑問は最もなことだった。
まさか、今さら聞かれるとは思ってもいなかったさくらは、八重樫との関係を強く否定すると、煉は更に眉を潜めた。
「もしかして、それは俺のせいか?」
「違いますよ……全部、自分の責任です」
確かに、煉が余計なことを言わなければと思ったことはあった。でも、それは自分がしっかりと、相手に煉のことを伝えれば問題は起きなかったはずなのだ。
だから、結局は全て自分自身の責任でしかない。煉を責める権利は、さくらにはない。
「すまなかった」
「どうして、煉が謝るんですか? 気にしないでください。悪いのは私なので」
「しかし……」
「この話は、これで終わりです。私、お風呂入ってきますね」
煉の謝罪をする気持ちは正直に嬉しく思う。だが、今は八重樫のことは触れられたくない話題でもあった。
さくらは少し強引に煉の言葉を遮ると、逃げるように自室に向かった。



