不死身の俺を殺してくれ

 あの日を境に、煉の様子は少しずつ変化していた。相変わらず感情表現が乏しいのは変わらないが、以前に比べて少し優しくなったように感じる。

 『何処が?』と聞かれれば、はっきりとは答えられないが、おそらく直感的なものだ。

 問題は依然として山積みなのだが、煉の変化について、さくらは素直に嬉しく思っていた。

「弁当を作ろう」

 何時ものように煉の作った夕食を美味しく食べ終えた後、煉はソファーに座り腕を組みながら唐突に言い放った。

「え?」

「さくらには世話になっているからな。朝食を作るついでだ」

 さくらは突然のことで、話の流れについていけずに硬直する。

「お弁当って言っても、私、お弁当箱持ってませんよ?」

「案ずるな。既に用意してある」

 ……ずいぶん、用意周到なことで。もう作ること前提じゃないの。というより、いつの間にお弁当箱買ってきたのよ。

 言いたいことが次々と溢れてくるが、最早何から追及すればいいのか解らない。

「面倒じゃないの?」

「面倒ならば、最初からこんなことは言わない」

 煉の性格上、面倒なことは好まないというのは知っている。だが、どうしてお弁当なのだろう、とさくらは疑問に思う。

 でも、お弁当なら社員食堂に行かなくて済むし……。どうしようかな。

 八重樫と気まずい状況に陥ってから、早一週間が経過していた。

 何度も謝罪をしようと試みたが、結局、寸での所で怖じ気付き、何も出来ないまま時が流れていた。

 八重樫も敢えてなのか、会社ではさくらに接触をして来なくなっていた。

 現状を打破したい気持ちは山々だが、もうこのままでもいいかな、という諦めの感情が芽生えていたのも事実だ。

 そんなときに煉から、お弁当を作って貰えるという話になり、さくらはどうするか迷っていたのだ。

「お願い……してもいいの?」

 控え目に問い返すと、煉は自信満々な表情で頷く。