不死身の俺を殺してくれ

 昨夜、煉はさくらを抱きしめたまま、突然電池が切れたように眠りに落ちた。

 抱きしめられていたさくらは、急に弛緩した煉の身体を支えきれずに、リビングの床に押し倒される形となった。

 その後、さくらは煉の身体を退けようとしたが、既にがっちりと身体を抱き枕の如く固定されていたため、逃げることが出来ずに結局そのまま煉と共に眠りに就いたのだ。

 手は出さないって約束は守ってくれたけど、まさか、あんな形で一緒に寝ることになるなんて思わなかった。
 
 しかし、我ながら煉には甘いなぁと思う。
 
 さくらは昨夜のことを思い出しながら煉を一瞥した。すると、煉は何故か顔を赤らめて、口元を押さえていた。

「煉、少し顔が赤い気がするけど……。もしかして、熱でもあるの?」

 昨日リビングで毛布も掛けずに就寝したせいで、煉は風邪を引いてしまったのかもしれない。さくらは心配になり煉の額に手を添えると、煉は大袈裟なくらいに動揺し慌てた。

「なっ! や、やめろっ!!」

「あ、ごめんね。うーん、熱はないみたいだけど……」

「平気だ。……だから、気にしないでくれ……」

 そう言う煉の顔は熱を持ったように上気し、赤らんだままだった。
 
 いつもは平常心で無表情に近い煉が、少し触れただけで、こんなにも取り乱すとは思わず、さくらは内心驚いていた。

 今までは、こんなこと一度もなかったのに、急にどうしたんだろう。
 
 疑問に思うが理由が見当たらない。

 さくらが何かを問うても、きっと煉は、はぐらかしてしまうだろう。そう思うと結局、何も尋ねることは出来なかった。

「そんなことより、もたもたしていると会社、遅刻するんじゃないのか?」

「は! そうでした。準備しないと」

「なら、俺は朝食を用意しよう」

 煉に促され、さくらは先程までの疑念を強引に胸裏に押し込むと、慌ただしく会社へ出勤する準備を始めた。