煉の突然の行動に、さくらは身体を強張らせていた。恐怖で、というよりも純粋な驚きでだろう。
「いい、けど。……本当に大丈夫?」
「ああ、平気だ。お前がいるからな」
「えっ!? それって、どういう意味……?」
「さあな。疲れた、寝る」
さくらの問いをはぐらかすと、疲れが出たのか急激に睡魔が襲ってきた。だが、さくらから離れるのは何だか名残惜しい。
もう少し、もう少しだけ、このままで。
そう繰り返し願っている間に、煉の意識はゆっくりと深い眠りに落ちていった。
◇
翌日。煉が眠りから目覚めると、ぼんやりとした視界に、さくらの顔が至近距離で映る。
「……っ!?」
驚きで声が出てしまうのを必死に飲み込み、静かにさくらから離れて状況を整理する。すると、昨夜のことが朧気に脳裏に浮かんできた。
疲れ過ぎていて、よく覚えてはいないが、さくらを抱きしめていたことまでは、何とか思い出せた。しかし、その先が問題だ。
どうして、さくらが俺と一緒に、リビングの床で寝る羽目になったのか。
……その原因が思い出せない。
「ん……煉……? どうしたの?」
眉間にしわを寄せて思考していると、煉の気配に気付いたのか、さくらが起床した。
「昨日は、すまない」
「……ううん、私は平気。それより、煉の身体の傷は大丈夫なの?」
「俺は平気だが……」
身体の痛みは当然ながら、まだ有るが、それよりも何だか、煉自身の感情がおかしなことになっていた。目の前にいるさくらが愛しく思えるのだ。
先程のことで少し動揺しているだけかもしれない。気持ちを落ち着ければ、この妙な高鳴りは治まるはずだ。
煉は目蓋を閉じて深呼吸をする。そして、再びさくらを見据えた。
だが、しかし。
この妙な高鳴りは変わらなかった。
「煉?」
さくらは不思議そうに首を傾げ、上目遣いで煉を見つめている。
俺は……一体、どうしたんだ?



